奈良のみやこ


「あをによし寧楽(なら)の京師(みやこ)は咲く花の薫(にほ)ふがごとく今盛りなり」

奈良を表現している歌では最も有名なものです。

「あをによし」がそもそも奈良の枕詞になった背景としては伽藍の屋根や、建物の格子の色彩が奈良盆地を囲む青垣とともに美しい青色に見えたからでしょうか。

瓦は当時は青色だったとしても格子は厳密には緑色。

それでも遠望すると堂宇、伽藍の色彩は青色に見えたのかもしれません。

平城京の青や朱の彩りの美しさは今では想像するしかありませんが、わずかに東大寺や薬師寺などの伽藍や春日大社には当時からの雰囲気が残っています。

建物の柱などの、朱色のことを、当時は丹(に)と呼んでいたことから「青丹よし」という説もあるようですが青と朱色のコントラストはいかにもきらびやかで映えた雰囲気だったと思われます。

奈良を歌う万葉集にはこの他にも、

「あをによし 奈良(なら)の都に たなびける 天の白雲(しらくも) 見れど飽(あ)かぬかも」

奈良盆地の美しい空間の中にたなびく白雲は見とれてしまいますが確かに空の景色も奈良のアイディンティなのでしょう。

「藤波(ふじなみ)の 花は盛(さか)りに なりにけり 平常(なら)の京(みやこ)を 思ほすや君」

藤の花が群生している様子などいかにも春日大社や春日の山奥ならではの彩りで、藤=奈良という気持ちはよくわかります。

桜も藤も奈良ならではの華であり花でしょう。

平城京の華やかかりし色彩が古寺より、江戸時代に再建された東大寺伽藍や昭和以降に復元が急ピッチで進む薬師寺で体感できるのは不思議な感覚です。

他方、朽ち行く土塀に囲まれた新薬師寺や戒壇院などもこれまた、京都にない奈良らしい雰囲気です。

新旧色彩がバランスよく共存していくところがこれからの奈良の古都としての絶妙の魅力なのでしょう。

何れも自然の色彩との調和が取れていることが気持ちを和ませます。

2010年には平城遷都1300年祭で大極殿が復元され、興福寺や唐招提寺の伽藍も少しずつ復元整備されてきています。

まだまだ今後も奈良の魅力が加わりそうで永遠の古都として輝いてもらいたいものです。
写真は東大寺二月堂からの夕景色。

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