歌麿と花見とエジプト



今回の冬のドラマで面白かったのはNHK火曜22:00の「フェイク」。
副題は、京都美術絵巻事件。
美術史にかかわる事件・史実をヒントにした京都版コロンボといった趣。
ちょっとダサい感じながら美術鑑定では冴えまくるといった主人公のキャラ設定は見事で脚本も「相棒」の作家ならではの力量でした。
http://www.nhk.or.jp/drama/fake/
ついでに財前さん演じるボケと元スケバンデカ?の南野さんのツッコミはちょっとコミカルな漫才風でサスペンスながら安心して見れる軽妙さがありました。

さて最終回は喜多川歌麿がらみ。
北斎と並ぶ世界的有名浮世絵画家が主題でした。

そんな歌麿を襲った晩年の悲劇が「洛東遊観之図」事件。
題材は豊臣秀吉の醍醐花見を描いたものでこれが江戸幕府の逆鱗に触れ、罰せられたのでした。
「手鎖50日」という厳罰だったようです。
この結果、歌麿は制作意欲を失い、禁固刑のあとほどなくして亡くなっています。
江戸幕府が260年も続いたのはりっぱなことだとする見方がありますがどうでしょう。
言論統制の厳しさは現代の想像以上で、明らかに鎖国政策の下での統制は日本をぼけにして、遅らせてしまったことも事実です。
この遅れを取り戻そうと維新以来、反動で日本はかなり無理な富国強兵に走ってしまいました。
第二次世界大戦の大本営報道部下の言論統制と似たような状況が江戸時代にも存在したわけです。
もちろん信仰の自由もなかったかと。
江戸幕府にとっては仇敵となる豊臣政権に関する表現は美術であってもタブーという背景がありました。
ましてや秀吉の花見絵を使って江戸将軍を皮肉るなど言語道断だったのでしょう。

「フェイク」では歌麿の贋作を見破った主人公が縛られ、「手鎖50日」とおちょくられるシーンがありました。
この脚本家は単に贋作からみのミステリーを作るのでなく表現の自由で時の権力に対抗した歌麿の本髄にも触れたかったのか、と感心してしまいました。

さてエジプト情勢ではグーグルやフェイスブックで情報伝達が行われ、一挙に変化が起こったと言われています。
現代は歌麿のような創作力がなくても言葉と機械で自由に意思表現が出来てしまいます。
歌麿のように「花見」という洒落た題材を使うこともなく。
もうすぐ「花見」のシーズン。
吉野や醍醐など花見名所は日本ならではの平和な賑わいになるのでしょう。



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